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化粧ケープ 8月7日

母が化粧台に向かうときに、

必ず肩にかけていた化粧ケープ。

上質なコットンの白地に、

うすいピンクのハートがちりばめられている。

外側の縁はシンプルなフリルになっている。

 

きれいに洗濯をしてあるものが出てきた。

 

思わず顔にあててみる。

 

母の香りがしみついているような気がした。

 

 

母は晩年にはこのケープを使っていなかったけれども、

子ども心に強い印象で、

この布地の質感や色合い、

風合いが記憶の中に存在し続けてきた。

 

三面鏡に映る母の身支度のしぐさがよみがえってくる。

 

亡くなって12年もたつというのに、

母が掃除をする私の横にいる。

 

蝉が鳴いている。

 

原爆の8月を母は悲しみ、怒っていた。

 

戦争によってどれほど多くの人々が尊い生命を奪われ、

またその家族の人生を豹変させてしまったか、と。

取り戻せない、と怒っていた。

お国が何を償えるか、と怒っていた。

 

そして母は三面鏡に向かい、

堺市議会議員として、

女性団体の委員長としてのいわば平和の戦士の身支度に、

今から思えば、

この可憐な化粧ケープで闘志を整えていたのだ。

 

母の生活には哲学と文化があった。

白洲正子さんどころではなかった。

 

人生における生き方の美学、

そろそろ私も見習わねば。