低く垂れこめたグレーの厚い雲に覆われた空。
こんな日は、
西の海の船の汽笛がこだまして、
東の空から聞こえてくる。
船がでる。
幼いころから、
この汽笛を聞くと見たこともない船を思い浮かべて、
どこへ行くのだろうと、考えていた。
太陽の見えない薄暗い空気の中で、
初冬の肌寒さや雨の冷たさが 汽笛の響きをどこか
ものがなしいものに仕立てている。
今日もそんな汽笛が聞こえる。
表に出ると強い風に吹き飛ばされた、
木の葉がいたるところに落ちている。
人は記憶の断片と時のかけらを ひろい集めて
生きつないでいる。
何事の おはしますをば しらねども
かたじけなさに 涙こぼるる
西行法師
過去の栄光に生きるあなたよ。
もがきながらも 共にもう一段 階段をのぼろうではないか。
今を生きようではないか。
たしかに人生の時は短い。
今日が明日には過去になる。
わたしは精一杯 今を生きたい。
月並みな私にとっては、
それができれば、無上の喜びです。